微生物が働く熟成肉ブーム

肉本来の味わい楽しむ

微生物が働く熟成肉ブーム

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 飲食店などで扱う店が増えている「熟成肉」。しばらく寝かせてうまみが増した肉のことだが、微生物の働きによってナッツのような風味が加わるものもあるという。「腐った肉」とはどこが違うのだろうか。(平沢裕子)

 

うまみが増加

 日本に熟成肉を広めた立役者の一人で、食肉販売会社「さの萬」(静岡県富士宮市)の佐野佳治社長が熟成肉と呼ぶのは、ドライエイジング(乾燥熟成)と呼ばれる手法で熟成させた肉だ。

 ドライエイジングは、真空パックが開発される前に欧米で行われていた伝統的な牛肉の熟成法だ。同社の場合、セ氏1~2度、湿度70~80%に調節された冷蔵庫に肉を並べ、強い風を当てて40日以上置いて作る。

 風を当てることで肉の余分な水分を飛ばし、乾燥が進む過程で付着する微生物が生成する酵素の働きによってタンパク質がアミノ酸に変わり、うまみが増した肉になるという。

 冷蔵庫とはいえ、生肉を40日も置いたら腐ることも懸念される。

 腐敗は、食品が微生物の働きによって変化した現象のうち、味やにおいが悪くなったり、健康に害を与えるなど人間にとって好ましくない状態になった場合をいう。これに対し、ドライエイジングは、特定の微生物の働きによって風味が増し、ナッツのような風味も加わるのが特徴で、腐った肉とは違う。適切な微生物をどう付着させるかが熟成のカギとなるのだ。

 最近はファミリーレストランなどのメニューで「熟成肉」「エイジングビーフ」の表示を見かけることが多くなったが、熟成肉の定義を消費者庁に問い合わせたところ「特に定義はない」という。このため、1日冷蔵庫に置いただけの肉を熟成肉と表示することは可能だ。

 

地域ブランド

 「熟成肉のおいしさは科学ではまだ解明されていない。おいしさは主観的なものだけに、表示だけでは見分けることができないことを理解してほしい」と指摘するのは、米・コロラド州立大でミートサイエンス(食肉科学)の修士課程を修了した熟成肉専門店「京都中勢以」(京都市)の加藤謙一さんだ。

 加藤さんによると、牛肉は熟成させることで、牛が育った場所の水や餌の香りなどをより感じられるようになるという。育成環境を反映した熟成によって日本各地に異なる味わいの牛肉が生まれれば、新たな地域ブランドとして確立することもできる。

 加藤さんは「肉の味わいをよくすることは、素材を大切にする日本の食文化にとって非常に大切なこと」と話している。

 

吉野家も、よりおいしさ求め

 牛丼チェーンの吉野家も昨年4月、牛肉メニューの肉を熟成肉に替えた。従来の肉との違いは、冷凍肉の解凍にかける時間。以前は日本の港に着いた米国産冷凍肉をすぐに加工場に搬入していたが、熟成肉は2週間ほどゆっくり解凍しながら冷蔵庫に保存し、その後に搬入する。

 冷蔵保存することで肉がおいしくなるのは、肉を扱う業者にとっては常識だ。ただ、安さを求める傾向が強かった時代には、その手間がかけられなかった。この数年、安さだけでなく、よりおいしいものが求められるようになり、それに応えたのが熟成肉という。

 

 

 

 

 

 

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